就活お役立ち情報

就職先に悩む学生へ

内定が出始めていると思いますが 自分の人生、自分で決めて! その選択が正解だったか否かは死ぬときにしか分からない

日経新聞「就活探偵団」より

我が子の就活をかき乱す過干渉の親たち

今回の疑問は「親が就活に口出しします。こんな親は多いのですか」

親は子が何歳になっても心配するもの。しかし、就職という大きな転機に干渉しすぎると子供の就活をぶち壊しにしてしまう危険性もある。親がかく乱要因になっている最近の就活事情を報告する。

■「配属先を教えろ」と激昂する親

大手企業が内定を出し始めたこの時期以降、採用担当者は緊張を強いられる新たな仕事が発生する。親からの電話への対応だ。

大手サービス業の採用担当者はこぼす。「地方在住の親からよく電話がかかってきます。『うちの子の配属はどこですか。地元にしてもらえませんか』と。もちろん配属先は言えないので丁重にお断りしますが、『なぜ言えない!』と激昂(げきこう)される親御さんもいます」

選考に落ちた学生の親が納得いかずに電話をかけてくることも多い。「なんでウチの子が落ちたのか理由を知りたい、という電話は多いです。絶対邪険に対応してはいけないと厳しく言っています。敵をつくってはいけないし、もしかして広告主の関係者かもしれない」(広告会社の採用担当)。どんなに理不尽なことを言う親でも対応を間違えれば、事業に影響する恐れがあるというのだ。

だが、企業の人事がもっと恐れる「親からの電話」がある。親による内定辞退だ。

「女性の声で『せっかくですが内定を辞退したい』と電話がかかってきたんです。でも、よく聞いてみると年配の人の声。母親でした」(アパレル大手の担当者)。どうやら母親が娘のふりをして内定辞退の電話をかけてきたようだ。

学生自身は電話をしづらいのかもしれないが、企業としては本人に直接確認しないと不安で仕方ない。大手住宅メーカーの話だ。「内定を辞退します」とたった1本メールを打ってきた学生がいた。いたずらの可能性もあるので本人に確認しようとしたが携帯に全く出ない。大学に連絡をとると、しばらくして父親から電話があった。ところが、謝罪の言葉どころか、「内定辞退のルールはどうなっているのか」と高飛車な態度。結局、父親が本人確認書を持参してきて内定を辞退。学生本人は最後まで姿を見せなかった。

親による内定辞退の電話が多いのは、学生が怒られるのを怖がって電話したがらないこともあるが、「その会社はやめておけ」と親が口出しする場合も少なくないという。

■新たな就活用語「オヤカク」

こうした背景から、別の住宅大手は内定を出す前に「ご両親はウチで問題ないと言っている?」と親が同意しているかどうかを念入りに確認するようにしているという。

「最近は『オヤカク』という用語が社内で飛び交っています」。企業に新卒学生を紹介する採用代行会社の担当者の話だ。オヤカクとは「親の確認」の略。この会社が企業に紹介した学生が土壇場で「親が反対なので内定辞退します」となると、顧客企業から信用を失ってしまう。この会社にとって「オヤカク」の有無は事業に直結する問題だ。

母親か父親、両方の確認をとったかも大事。携帯電話の販売会社の内定をとった学生のケースで母親はOKだったが、公務員の父親が「せっかく大学まで出たのだから販売職より公務員を目指しなさい」と内定辞退させたという。

「せっかく苦労して大学まで行かせたのだから」(高卒の父親) 「なんで自分のように大手企業に入れないのか」(大企業の父親) 「近所のみんなが知っている有名な企業に入ってほしい」(専業主婦) 採用代行会社によると、内定辞退をしてくる親はこんな動機に分類できるという。

「親がえり好みを続けて卒業まで就職が決まらないケースもありました。すると親は『もう1年就活すればいい』と平気で言う。就職留年してもあまりメリットがない現実をわかっていない。正直、ここを蹴ったらもう紹介する企業はないよという気持ちでやっているんです。あの子の就職はどうなったのか……」。担当者は親に振りまわされた就活生の行く末を案じている。

今の就活生の親世代が就職したのは1980年代前後だろう。バブル経済(86~91年)と前後し、日本経済は成長を続け、企業は新卒学生を奪い合うように採用を増やしていた時期だ。当時に比べて就活ははるかに厳しくなっているのに、その現実を知らずに過去の自分の成功体験をもとに口出しする親が増えているのだ。有力私大4年生の女子学生はそんな親に苦しんだ1人だ。

「親の存在がプレッシャーできつい就活でした。親は事情もよく知らずに時々、地元から上京してくると『ここを受けなさい』とか『面接でこうしなさい』とあれこれアドバイスらしきことをします。しかし、勧めてくるのは誰もが知っていて簡単には入れない有名企業ばかり。イライラしてけんかになることもありました」

現実をよく知らない親が口出しするケースもあれば、厳しさをわかっているがゆえに口出ししてくる親もいる。

別の採用代行会社の話だ。「先日、東大生の母親という人から相談を受けました。『頭のいい子なんですが今留学中で、就活で出遅れています。頭のいい子なんですが大丈夫でしょうか』と。東大生で留学もしているくらいなら、普通は心配しないものですが……」。情報過多で心配しすぎている様子だったという。

■口出しする親が子の評価を下げる

担当者は親の口出しが年々ひどくなっていることを肌で感じている。この会社も新卒学生を企業に紹介するサービスを手がけている。「なんでウチの子にいい会社を紹介してくれないのか」と怒鳴り込んでくる親、学生との面談にまで同席しようとする親……。そんな親の子の評価はどうなのだろう。「いいわけないでしょう。自立心ゼロでやる気もないとみなします」。親の口出しが学生の評価を下げてしまうという逆効果だ。

厚生労働省傘下で学生の就活を支援する東京新卒応援ハローワークは4年前から親向け就活セミナーを定期的に開き、「親の心構え」を説いている。以下がセミナーで毎回出てくる警句だ。

・就活は落ちて当たり前。親がしゅんとしたら子はもっと落ち込む。 ・親の価値観を押し付けるな。でも「全部任せた」は無責任。 ・子の質問には「そんなことも知らないのか」などと言わずに答える。 ・就職留年は問題の先送り。 ・「女子は中小の正社員より大企業の派遣」は間違い。派遣はスキルが身につかない。 ・安易に「営業はやめろ」と言うな。

セミナーに参加するのは心配性の親ばかりのように思えるが、統括職業指導官の細田誠さんによると「子供に言われて来る親も多い。過干渉の親に嫌気が差した子供が、親に就活実態を知ってほしいという理由です。せっかくもらった内定を『そんな会社知らないからやめろ』と親に反対されて辞退するケースが増えていますから」

同じく統括職業指導官の水野治さんは「競争が厳しい最近の就活は団体戦。就活では友達は頼りにできない。親を味方につけたほうがいい」という。確かに就活中の諸費用負担、精神的なサポートを考えると就活事情を正確に知っている親は頼りになる存在だろう。

■親と子の「就活距離感」

では、就活で親と子はどの程度の距離をとればいいのか。最近、子の就活を体験した母親、父親それぞれの話を聞いてみた。都内中堅私大を卒業し今年4月、IT企業に入社したAくんの母親(49)。

「ベンチャーより安定している大手がいいんじゃない、程度のことは言いました。本人はIT系を希望していて昨年4月までに内定をとって就活はやめてしまった。『もう少し頑張ってもいいのでは』という気持ちはありましたが、何も言いませんでした。高校受験の時、子供に求めすぎてうまくいかなかったことがあったので大学受験、就活とも、あまり口を出さないようにしました」

もう1人は今春、第1志望の食品メーカーの内定をとった私大生の父親(56)。

「息子に頼まれてエントリーシート(ES)を見たり、模擬面接をしたりしました。面接に落ちても『一定数は落ちる。落ち込む必要はない』と励ましました。基本的に相談に答えるという受身の形。親がどこまでかかわるか、難しい問題だと思う。あまり介入するのは良くないと自制し、必要な場面を見極めてサポートするようにしていた」

口出ししたい局面があっても自制し、適度な距離感を保っている点で共通している。子供が自立的に就活を乗り切ってくれれば何も問題はないが、「どうしても心配」という親は過干渉にならない距離感を意識する必要がある。

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